浦原 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 千年血戦篇2

目を覚ますと、毎度お馴染みの涅隊長のドアップ。悲鳴を上げなかっただけわたしは偉いと思う。

「フン、本当に貧弱だネ、オマエは」

「あ、阿近、阿近は、黒崎一護は!」

他にも、技術開発局のみんなだって。リンたちはどうなったのだろうか。涅隊長の後ろに控えた副隊長が簡潔に説明をしてくれる。2年前も同じようなことがあった気がした。黒崎一護の力で滅却師は撤退した。しかし、山本総隊長は戦死し、朽木隊長、阿散井副隊長、朽木ルキア副隊長が重傷、特に朽木隊長は確実に助からないと言われる状況だったらしい。黒崎一護の卍解は敵に折られた。始解とちがって卍解は折れてしまったら直らない。しかし、零番隊が霊王宮から降りてきて、重傷の3人と黒崎一護を連れて行ったらしい。零番隊ということは、曳舟隊長が来たのだろうか。出来ればお会いしたかった。そして山本総隊長に代わる新しい総隊長は、京楽隊長になったそうだ。技術開発局は被害は甚大であったものの、リンも、阿近も、鵯州も無事らしい。最後まで寝ていたのがわたしとのことだ。

「阿近を治療したことだけは褒めてやるヨ」

「……ありがとうございます」

本当に珍しいことに、涅隊長に褒められてしまった。あの状況で生き残るだけで御の字だけど、怪我しないようにとの浦原隊長の言葉を守ることはできなかった。壊滅した技術開発局の立て直しに尽力しているらしいみんなの手伝いをするように言い残して忙しそうに去っていく涅隊長とそれに着いていく副隊長。わたしまた涅隊長の薬品使われたのかな。身体がとても重い。まだまだ眠っていたいところではあるが、満身創痍なのはみんな同じだ。寝かされていた部屋を出て局に向かう。なんで寝かされてるのが四番隊ですらないのか。そんな文句を言ったところで仕方ないけれど。色んな建物が倒壊した瀞霊廷は、以前の見る影もなかった。今回は、退けただけだと言っていた。つまり、この先、また滅却師が攻めてくることがあるのだ。その時のためにも、解析や察知を担当している技術開発局の復旧は急務である。

「みょうじお前、もういいのか?」

「阿近…うん、涅隊長の薬のおかげで」

局に入れば、誰より忙しそうに動いている阿近がわたしに気づいて声をかけてくる。意識を失う前にかけた回道の成果か、阿近はそうかからずに復帰できたらしい。状況は副隊長から聞いてると伝えれば、じゃあさっさと動け、とどいつもこいつも容赦のないことを言ってくる。さすが他の隊から嫌煙されている十二番隊。隊長を筆頭に人でなしの集まりか。バタバタと考える間もないほどに走り回る。そして数日後。突然、それは現れた。計測器のバグかと思われたが、そうではなかった。まるで瀞霊廷を飲み込んでしまうかのように現れたそれ。見えざる帝国とは、瀞霊廷の影の中にあったのだ。だから突然の襲撃に対応することができなかった。やつらは瀞霊廷に侵入してきたのではなく、最初からそこにいたのだから。技術開発局にも突然現れた滅却師。影に潜んでいたなんて、そんなのありえない。そうやって認めることができない局員たちを滅却師が馬鹿にした。しかしそこに、やたらと眩しい涅隊長が同じく眩しい副隊長を連れて現れた。今回の衣装のモチーフは、太陽だろうか。毎度毎度馬鹿みたいに凝っている衣装ではあるが、ここまでぶっ飛んだのは初めてかもしれない。以前、ちょうど旅禍が現れた辺りだろうか。隊長が被っている帽子を便器と揶揄した際には地獄を見たので、本人的にはかなりこだわりがあるらしい。いやだってどう見ても和式便所だった。隊長が戦うのであれば下手に動くのは得策じゃない。もちろん、卍解を使われたら逃げるしかないけれど、卍解を奪う敵を相手に卍解を使うほど隊長はアホじゃない。隊長を殺すのは時間がかかる、と何もせずにぐだぐだ喋って技術開発局を出ていくその男を黙って見送る。明らかに誘っているような背中。おそらく近づいたら最後だろう。先日の滅却師の襲撃により傷ついた身体が、涅隊長の薬で治っているはずなのにじくじくと痛んだ気がする。ぞわり、と身体を這う感覚は、恐怖だろうか。

「…霊圧が二ツ程消えたネ」

「はい…砕蜂隊長と日番谷隊長が…」

卍解を奪われた隊長ふたりがやはり真っ先に倒れたらしい。今、卍解なしで戦える隊長がどのくらいいるのか。涅隊長くらいのものではないだろうか。

「もしもォーーーーし!!」

その時、光り輝く涅隊長の服から先日も聞いたばかりの声が鳴り響いた。当然、浦原隊長のことが大嫌いな涅隊長の機嫌が急降下し始める。なんでよりにもよって涅隊長の服に仕込むのか。わたしの服に仕込まれても嫌だけど阿近あたりで手を打ってはくれないのだろうか。しかし、卍解を取り戻す方法が完成した、と告げた浦原隊長に、あからさまに局内がざわざわと騒ぎだす。涅隊長の前で浦原隊長を褒める局員までいた。

「成程成程。素晴らしい研究結果だネ」

「イヤあ〜〜まあアタシにかかればこんなモンっス」

浦原隊長を素直に褒める涅隊長に背筋がぞわりと粟立つ。ねえこれ絶対怒ってる。浦原隊長のこととなればわたしに火の粉が降って来るのも容易に予想ができるので、こそこそと阿近の影に隠れようとすると、既に時が遅く涅隊長のギョロリとした目がわたしを捉えた。浦原隊長の研究結果とは話が別だと言う涅隊長は、服の耳元に取り付けられているらしい通信機の電源を切ろうとしている。ねえ今まさに卍解が使えないせいで死にかけてる人たちがいるんですけど。

「私の服に無断で通信装置を取り付けた罪は万死に値する」

「あれぇ!?ちょっとまって!もしかして通信切ろうとしてます!?」

「ちょ、ちょっと涅隊長!」

いまの技術開発局には、浦原隊長がいた時代を知らない人も多く、誰も涅隊長を止めることができずにいる。阿近ももう完全に諦めていた。仕方なくなんとか止めに入ろうとするが、それよりも通信を切る涅隊長の動きの方が早かった。

「さらばだ」

「ウソでしょ!?ちょっとまって下さいよ!切らないで切らないで!!」

わ〜〜〜という悲鳴を最後にブツン、通信が切られる。本当に大人げのない隊長だ。昔から浦原隊長のことが嫌いなのは知っていたけれど、今はそれどころじゃないのに。しかし、

「なぁ〜〜んちゃって」

ガラ、と背後と穿界門が開く音と同時に今の今まで通信で隊長の服から鳴り響いていた声が聞こえて、その場の全員がびくぅ!と肩を大きく跳ねさせた。もちろん、涅隊長も例外ではない。そして涅隊長を説き伏せ、やたらと眩しい研究室の使用許可を得た浦原隊長が、卍解を取り戻す方法を戦っている隊長たちに届けるために技術開発局員を引き連れて研究室へと歩を進める。

「遅くなってスミマセン。よく頑張ったっスね」

すれ違いざまに一瞬、ぽん、とわたしの頭に感じた重み。それだけで、胸の不安が軽くなって、先程滅却師が現れた時から微かに震えていた手が、ぴたりと止まる。先日の襲撃の際に死にかけたことが、自分でも気付かないうちに頭にこびりついていたのだろう。だから、つい、涅隊長のやたら眩しい研究室へと歩いていく黒い羽織に手を伸ばしてしまった。そんな時間なんてないのに。わたしなんかが、傍にいてほしいと願っていい人ではない。藍染との戦いを経て、彼は無事冤罪を晴らし、一部では英雄のように扱われているのだから。でも、わたしがその羽織を掴むよりもはやく、大きな手が伸ばしたわたしの手を包んだ。こちらを振り向きもせず、涅隊長や阿近と話しているというのに。手を握られているので、研究室に入る浦原隊長についていく。話がひと段落して作業に取り掛かる前に、そういえば涅隊長、と浦原隊長が涅隊長を呼びとめた。

「アタシの助手になまえサンをもらってもいいっスか?」

「助手という名目ならもっと使えるのを選ぶはずだヨ」

どうして浦原隊長がわたしを指名したのかなんて、わたしにも涅隊長にも、すぐに察しがつく。きっと先日の襲撃の際にわたしが大けがしたことをどこからか知ったのだろう。本当に甘い男なのだ。しかしそれでも、わたしの行動で瀞霊廷が救われるのであれば、迷わずわたしを死地へと送り出す。わたしにそれだけの能力がないためにそんな事態にはならないけれど。瀞霊廷のために、と浦原隊長が口にするたびにひよ里が眉を顰めていたのを思い出した。

「昔はどうあれ、その女は私の実験体…モルモットだ。好きに使われるのは困るんだがネ」

「いいっスねぇ、モルモットって響き。なまえサンを飼うって考えるだけでテンション上がってきちゃいました」

「やめてください」

ホォーラ、と繋いでいた手を離してわたしを高い高いしてくるくる回る浦原隊長に、声を荒げてやめてください浦原さん!!と怒鳴る。しかしわたしが言ってもきかないのに、阿近がそこで遊ばれると邪魔なんだよ!と一喝すると大人しくわたしを下ろすのはどういうことなのだろうか。完全に軽蔑しきった目でわたしたちを見た涅隊長は、好きにしたまえ、と簡単にわたしを見捨てた。最初からわたしのことはどうでもよかったんだろう。ただ浦原隊長の思い通りにさせたくなかっただけで。

「浦原隊長、とは呼ばないんスか?」

先程声を荒げた時のことだろう。もう隊長ではないといくら言われても頑なに浦原隊長と呼び続けたわたしが、さっきは自分から浦原さんと呼んだ。

「……今のわたしの隊長は、涅隊長なので」

少なくとも、涅隊長の前ではこの人を隊長と呼ぶことなんてできない。本当に人でなしのマッドサイエンティストだし使用用途がなければ隊士を人間爆弾にするような人格破綻者ではあるものの、尊敬すべき我らが隊長であることもまた事実なのだ。変な格好しているけど。浦原隊長は、それを聞くと、なんだか少し寂しそうに笑ってわたしの頭を撫でくりまわしてから、涅隊長の改造された眩しい研究室で忙しそうに動き回る局員たちとともに、奪われた卍解を取り戻す方法を各地で戦っている隊長たちに送る準備をしに行く。浦原さん、という呼び方は、嫌だったのだろうか。しかし今はそんなことを考えている場合ではない。撫でられて少しくしゃくしゃになった髪を手櫛で整え、わたしも駆け回る局員たちのサポートに向かった。


[ back to top ]